mikapen’s diary

アメリカに住んでいます。旅行と読書と音楽が好きです。私のくだらないお話を聞いてください。

初めて小説を書いてみます2

今日は、続きです。

 

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 実際に見送ってしまった後は、気持ちが一気にすっきりしてしまい、冷静な自分が戻ってくる。あんなに恥ずかしいことを良く言えたもんだと、他人事のように感じるのが少し可笑しかった。

知り合いに見られていなかったか、さりげなく左右を確認した後で、鞄の中からコンパクトを取り出して目をチェックすると、多少メイクは崩れているが、すでに涙は止まっている。このまま誰にも会わずに帰れますように、と心の中で唱えながら、早歩きで地下鉄のホームへ足を向けた。

 

 地下鉄は、駅から遠ざかるごとに人が減っていく。3番目の停車駅を過ぎると、車内はほぼガラガラになっていた。サラリーマン、女子高生、親子。ぼんやり乗客を眺めていると、鞄がブーブーと揺れた。聡からのメッセージが届いたのだった。
『今日はありがとう。しばらく遠距離になるけど俺たちなら大丈夫だ。あんまり泣くと目が腫れて直らなくなるぞ、笑。大好きだ。愛してる。』
美雨は思わずニヤッとして、すぐに返信ボタンを押したが、素敵な言葉が思い浮かばない。仕方がないので『こちらこそありがとう。私も大好きだよ。』とだけ送って、スマホをそっと鞄にしまった。
 最寄り駅まではまだ遠い。窓の向こうのコンクリートと、そこに映る自分の顔を数秒見つめて、目を閉じた。
そして、たかが東京と名古屋の距離じゃないかと思う反面、この恋が長くは続かないのかもしれないという不安が頭をよぎるたびに、心がズキッと痛んだ。

 

☆☆☆

 

《つづく》

 

みかぺん